無人島

 

 

 

海辺の街に、とある家族が住んでいました。
その家族は、お父さんと、お母さん、それから小学2年生の翔君、それに、犬のポンタの4人家族でした。

今は、7月です。翔君の学校では、もうすぐ夏休みになります。
翔君が、お父さんとお母さんに言いました。

「僕ねー、夏休みになったら、船に乗りたいんだあ。」
翔君は、船に乗るのが大好きなのです。

すると、お父さんが「そうか、船に乗りたいのか。じゃあ、家族4人で、船に乗って無人島にでも行ってみるか。」と言ってくれました。

「やったー。」翔君は大喜びです。

お母さんは、「え~、無人島~?」と言い、あまり乗り気ではありませんでしたが、「わかった。じゃあ、行ってみるかい?」と言ってくれました。

そして、いよいよ、夏休みに入り、日が近づいて来ました。

翔君は、「楽しみだなー。僕、無人島で何しようかなあ。何持って行こうかなあ。」と、わくわくしながら、考えています。

お父さんが言いました。
「何しようかな~って、翔、無人島には、誰もいないから、無人島って言うんだよ。」と言いました。
「人がいないんだから、お店もゲームも無いし、寝るしかないさー。」

翔君は「えー! でもいいよ、色んな形の貝殻を集めるから、僕。」と言いました。

そして、いよいよ、出発する日になりました。

「よし、準備はいいか、出発!」とお父さんが言って、みんなで車に乗り込み、港に向けて車が走り出しました。

それから、1時間程が経ち、港に到着しました。

お父さんが指をさして「ほら、あれだよ。あの船だ。僕たちが乗るのは。」と言いました。

翔君がその船を見ると「わ~、ちっちゃいなあ。あんなにちっちゃくて大丈夫?」と少し不安げに言いました。

お父さんは「大丈夫、大丈夫。夏はねえ、あまり波は高くならないから、船もあまり揺れないんだよ。ほら、あそこの船の上で手を振っている人がいるだろ。あの人が船を操縦してくれる山田さんだよ」。

見ると、少し背の低い、あごひげを蓄えた優しそうな顔のおじさんが、ニコニコして手を振っています。

「こんにちは! 今日はよろしくお願いします。」とお父さんが挨拶しました。

「こちらこそ、よろしくお願いします。今日は、天気が良いから、最高の旅になりますよ。」と、山田さんが言ってくれました。

「よし、船に乗り込むぞ。」とお父さんが言うと、家族4人は、ひとりづつ船に乗り込みました。

「では、無人島に向けて、出発しまーす。」と山田さんが言い、船のエンジンを始動させます。

ブルンブルンブルン、ポポポポポポポポ・・・

船はゆっくりと、港を離れ、どんどん沖合へと進んで行きます。

ポポポポポポポポ・・・

それから、一時間程が過ぎました。


天気も良いし、海の風も気持ち良いし快適なので、翔君はだんだん、眠たくなってきました。

「お母さん、僕、眠たくなってきたよ。」と言うと、船の上に設置してあるベンチに横になり、眠ってしまいました。

翔君が寝ていても、船はどんどん進んで行きます。
そして、翔君が眠り始めて、三十分程が経った時のことです。

お母さんが、翔君の体を揺さぶりながら、

「翔、翔、大変だよ。ポンタがいなくなったよ。」と言いました。

「え~! ポンタがいないの?」と言って、飛び起きました。

お父さん、お母さんと翔君の3人は、一生懸命に船の上と船室の中を捜しましたが、ポンタは見つかりません。

「どうしよう。お父さん、お母さん、ポンタはどこに行ったんだろう。海に落ちたのかなあ~?」と翔君は、不安顔で言いました。


そして、広い海の方をじっと見つめました。翔君の目には、波と、波の上の白い泡しか見えません。

「ポンタ・・・・海の中に沈んじゃったのかなあ~」と翔君は言うと、泣きそうな気持になってきました。

その時です。

ドスーン!

すごい音がすると同時に、大きな振動が、みんなの体を揺らしました。

すると、船を運転していた山田さんが、叫びました。


「大変だ! 船体の底が、大きな岩にぶつかって、底に穴が開いたぞ。沈むぞ!」

「えー! どうするのよ。海の真ん中で。」とお母さんが叫び、みんな大騒ぎです。

しかし、みんな騒いでいますが、誰もどうすることもできません。

だんだん、船が沈みはじめました。

その時、山田さんが叫びました。

「しょうがない、とりあえず、船の上についている一番高い屋根の上にみんな集まるんだ!」

「よし」とお父さんは言い、お母さんと翔君の手を引っ張って、一番高い屋根の所に連れて行きました。

山田さんも、そこに昇って来ました。

ポポポ・・・ブクブクブク・・・

ポポポ・・・ブクブクブク・・・

船は、前に進みながらも、だんだん、だんだん、沈んでいきます。

そして、ついにその一番高い屋根のところも、海の波が近くなってきました。

「あ~! もうだめかもしれない。」山田さんが叫びました。

その時、不思議なことが起きたのです。

なぜか、船が沈むのがピタッと、止まったのでした。

「おおおー。船が沈むのが止まったぞ!不思議だ!」とお父さんが叫びました。

そうかと思うと、こんどは船が、なんと、上に上がってくるではありませんか。

「おーーーーーーーーー。なんだ? どうなってるんだ? 海の神様が助けてくれるのかなあ。」とお父さんが叫びました。

そして、船はどんどん、どんどん、通常の高さと同じぐらいの高さまで上がりました。

「おーーーーーー。神様だ。海に神様が居るんだ。」と翔君が言いました。

しかし!

船は、それからも、まだまだ、高く上がって行きます。

「あれ~?」

「あれーーー!」

「あれーーーー何だあ?」

みんな、叫びました。

「神様―! もういいよ、上げ過ぎだよ。止めて、止めてー」
と翔君は思わず叫びました。

でも、船はどんどん、どんどん高く、昇って行きます。

そして、翔君は、船の下を見てみました。

すると、なんと、船の下には、巨大なタコが居て、タコは自分の頭の上に船を載せて、持ち上げているではありませんか。


「わあ~、おばけタコだー!」翔君は叫びました。

タコは、翔君を大きな目で、ギロッと睨みました。

翔君は、「わーーーーーー、タコに睨まれたあ~」と叫びました。

「でも、タコさんが、助けてくれたんじゃないの!ありがとう、タコさん!」とお母さんが叫びました。

その瞬間、その大きなタコは、海の中から大きくて長い足を1本、海の上へ、ザバーッと出しました。

すると、なんとそのタコの足の上には、犬のポンタが、乗っているではありませんか。

それを見て、翔君が、「ポンタ!」と叫びました。

すると、「ワンワンワン!」とポンタは吠えました。

「ポンタ、生きてるよ。よかったあー」と翔君が言いました。

そして、お父さんが、手に持っていたリュックから、オニギリを一つ取りだし、タコの口へ向かって投げました。

ヒューン

パクッ

タコは、上手にオニギリを口で受け止め、モグモグと食べてしまいました。

そして、食べ終わると、タコはにっこりして、先ほど、ギョロッとしていた目も、にっこりと優しい目に変わりました。

それから、タコはもう1本の別の足を、ザバーッ と、海の中から上に出しました。

そして、こんどは、その1本の足を横に伸ばし始めました。

そのタコの足は、どんどん、どんどん横に伸びていきます。

しばらくすると、もう、そのタコの足の先っちょが見えなくなるぐらい伸びていきました。

そして、タコが言いました。

「この足に、乗ってみろー。」と、大きな、怪獣のような声で言いました。

「えー。タコの足に乗るの?」と、お母さんが不安そうに言いましたが、

お父さんが、「よし、タコさんの言う通り、やってみよう。」と言いました。

そして、みんな勇気を出して、いち、に、のさん、で、順番に船の屋根の上から、タコの足めがけて、ジャンプしました。

すると、タコの足の上は、ヌルヌルしていたので、滑り台の上のように、みんなのお尻は滑りだしました。

ツルツルツルーーーーー

と滑り出し、タコの足の先っちょ目がけて、滑っていきます。

犬のポンタも、みんなにつられて、飛び乗りました。

そして、みんな一列に並んで、

ツルツルツルーーーーー

と、どんどん、どんどん、滑って行きます。

「わー、凄く早くて怖いけど、気持ちいいー」と翔君が、叫びました。

そして、みんなは、どんどん、どんどん、滑っていき、何と、その先に、無人島が見えてきました。

ツルツルツルーーーーー、

パタッ、パタッ、パタッ、パタッ、パタッ。

到着だあ。

みんなが、タコの足の上を全部滑って、降りたところは、なんと、無人島の砂浜の上でした。

みんなは、「わー、よかったね~」と大喜びしました。

そして、海の方を見ると、タコさんは、ゆっくりと、海の中へ帰って行こうとしています。

「タコさーん、ありとう!」とみんなで叫びました。

それから、家族全員と山田さんは、無人島で、昼寝をしたり、貝殻を集めたりして、楽しんだあと、ちょうど通り掛かった別の船に助けられ、無事に自分の家に帰ることができました。

 

 

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